はじめに

 歴史的に日本は医学全般をドイツに学んできた。現在もドイツは精神医療先進国の一つであり、特に精神病理学では歴史も深く、先進的なアプローチをしている。今回私はそのドイツに於いて、どのように精神科医がはぐくまれているのか、その研修システムを視察するため、ハンブルグ大学付属病院の精神科を訪問した。

 

施設概要

 ハンブルグはドイツ第二の大都市である。ハンブルグ大学は日本でいえば京都大学に相当する大学である。大学病院は新築が進んでおり、一般身体科の建物と別に精神科用の建物がある。精神科だけで900床という巨大な病院である。
 精神科研修は5年間のプログラムで行われ、研修医は32人いるそうだ。
 病棟はニーズに応じて多岐にわたる。統合失調症病棟、うつ病病棟、強迫性障害不安障害病棟、アルコール依存病棟、総合精神科病棟、パーソナリティ障害病棟、などなど。児童思春期は別棟があり、18歳以下は基本的にそちらが診ているそうだ。おそらくここだけで200床ぐらいある様子。

 

医療構造

 ドイツでは各家庭がかかりつけ医を持っており、患者は必要に応じてそのかかりつけ医から紹介されてくる。また精神症状が重篤な場合には救急部に直接訪れる。救急部は3つの身体科と精神科が協力しながら運営していて、日本のように精神症状があるだけで受け入れを拒否されたり、ろくな身体検査もされずに精神科に回されてきたり、と言うことはないそうである。(これらの事象は滋賀医科大学付属病院でもあり得ない。それは救急部に一人精神保健指定医が配属していることが大きく影響している)

 

日程

4月10日
総合精神科病棟、およびアルコール依存病棟の視察
4月11日
統合失調症病棟、およびパーソナリティ障害病棟の視察
院内講演会 講師
4月12日
モーニングカンファ、外来ユニットの視察
院内講演会 参加
4月13日
モーニングカンファ参加、レジデントに対してインタビュー

 

成果報告

今回の視察において特に印象的であった点について紹介し成果報告とする。

  • なぜ彼らは精神科医になるのか
     必ずしも彼らは最初から精神科医になろうと決めているわけではない。講義や臨床実習の中で興味を持ち、そういった学生に対して精神科医は積極的にアプローチするのだという。そのプレゼンテーションが素敵だったから精神科医になりました、という研修医が非常に多かった。
  • どのように彼らは研修を受けるのか
     日本における精神保健指定医に相当する資格を取得するためには、ドイツでは4年の精神科研修と1年の神経科研修を行わなくてはならない。その間研修医は各病棟に配置され、希望に応じてローテーションしながら研修を積む。
     また、精神保健指定医の資格を取得するだけでは何の意味も持たず(ほぼ全員取得するので)大事なのはサブスペシャリティーの資格の取得なのだという。正規の研修とは別に、各研修医はおのおのの希望に応じてサブスペシャリティーの研修にも参加する。その費用はなんと実費負担なのだそうだ。それだけで合計600時間という膨大な研修である。
  • なぜ彼らのモチベーションは持続するのか
     研修は彼らの希望に忠実に行われる。日本でもそうなのではないかと思われるかもしれないが、日本では精神科になってどこの病院で研修するのかを選ぶところまでは自由が効くが、そこから先はどの指導医につくのか、何を学ぶのかに至るまで、自ら選ぶことはそうそうない。ドイツでは勧誘を受けても、自分の希望でなければ毅然と断るのだそうだ。当大学精神医学講座の研修は比較的自由度が高いが、それでもドイツほどではないと感じた。
     彼らに、ここでの研修に満足しているかと聞いた。意外にも、満足していない、と言う答えだった。
    「もっとレクチャーやカンファレンスはあっていいと思うし、サブスペシャリティーのために外に勉強しに行かなくちゃいけないし。もっともっと勉強できる環境にできるんじゃないかと思っています。」
     レクチャーもカンファレンスも当大学に比べれば格段に多い。それでも彼らの向学心は満たされているわけではない。そして指導医たちは研修医の向学心を満足させるべく様々な工夫を凝らし、それが成功している部署に研修医は集まっている。研修医のモチベーションを保っているのは指導医のがんばりであった。

 

地域精神医療学講座の今後に向けて

 研修医・学生の精神科に対する興味を引くためにはやはりプレゼンテーションが大切である。そのチャンスは講義、臨床実習などの大学カリキュラムや、初期研修における精神科研修が挙げられるが、我々はそのチャンスを着実に結果につなげなければならない。それは彼らの向上心を刺激するものでなければならない。
 我々の開催している地域精神医療学講座懇話会や、学会研修支援は合目的的なものと考える。
 また、それ以外の時間に於いて精神科に対する彼らの興味をそぐ因子を減らす工夫も必要と感じた。研修医は研修期間の大半を他科で過ごしている。つまり他科からみた我々の信頼感は大きく彼らの精神科に対する興味に影響する。従って他科からのコンサルテーションを受けた際の対応を中心に我々の治療成績そのものを向上させる必要がある。